日本の美しき伝統技法、ミツローの引き目。
Hikimeはミツローを伸ばした時にできた凹凸の連なりのこと。
なにも混ぜない蜜蝋を引っ張っても美しいHikimeは現れない。
粘りをつけ伸びを良くするため蜜蝋に松ヤニを混ぜる。
それを煮込んで、きめ細かく濾し、冷まし、寝かせ、再び温め、よく練って伸ばすと美しい
Hikimeが浮かび上がってくる。
季節によって、作るものによってその2つの素材の配合は微妙に変わる。
季節、配合比、精製の仕方、温め方、練り方、引き方、そのすべての環境や所作がHikimeの姿に反映する。
どんなHikimeを引くか、どんなHikimeが出てくるか、想像しながら経験と偶然性が織りなす線の集合体を形にする。
光にあてるとまるで黄金のように煌めいて、繊細な稜線が姿を見せる。
ルーペで覗くと肉眼で見えない線が無数に存在していることに感動する。
ミツローは熱に弱く、50度ぐらいで溶け始める。寒さには強いが少しの衝撃で割れることがある。
限られた温度帯の中でしか造形できないというデメリットもあるが、またその制限の中だからこそ唯一無二のミツローのHikimeが生まれ出るのだと思う。
その繊細で優美な姿を長期間保存するには、異なる素材(金属)に置き換える(鋳造する)必要がある。
金属に継承された引き目の形はより強く美しく輝きを与えることができる。
引き目は抽象的な造形でありながら、具象的な創造性も感じられる。
川のうねり、風の流れ、長い年月風雨に刻まれた大地、樹木の年輪、など自然から生まれた産物にかたちが重なる。
天然の素材を柔らかくし引っ張ることで生まれる自然な形がそこにはある。
指の柔らかさや熱、重力、冷めて固まっていくスピードを加味しながら感覚を研ぎ澄まし、
ゆっくりと呼吸しながらHikimeをつくる。
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